動作の速いバイアグラ
ランドックの出現と発言内容に、投資家たちは驚きとショックで目を丸くした。
ランドックが取締役会の不正を暴き、その経営の責任をとるように取締役会への攻撃が始まると、ブレア・フエイパーも立ち上がり、ファンドの基準価格が水増しされていた、そして取締役たちが不当な報酬を受け取っていたと矢継ぎ早に批判を浴びせた。
このふたりのアメリカ人の勢いに便乗して、日ごろはおとなしいヨーロッパの投資家たちも、経営陣への批判を次々と口にし始めた。
ついに取締役全員が会議室の前方に集まり、投資家は一団となって後方に陣取って、互いににらみ合った。
ランドックとブレア・フエイパーは経営批判の先頭に立って現取締役全体の退陣を要求したが、経営陣はそれを正式な動議とみなさず、総会は数時間たっても収拾がつかなかった。
ランドックとフエイパーは、取締役会の即時退陣、ファンドの不正会計疑惑、取締役員に対する不当な報酬支払いなどに対して徹底追及、訴訟も辞さないという強硬姿勢で臨んだ。
しかしながら、信用と体面を重んじるヨーロッパの大手機関投資家たちは、このふたりのアメリカ人を中心とした急進的な態度には腰が引けていた。
彼らは、株主の利益のために正義を追求するといっても、訴訟など過激なやり方を望んではいなかった。
あるジュネーブの大手プライベート・パンクの運用担当者は、大混乱となった取締役会の様子を困惑しながら見守っていた。
数世代続く一族の資産管理を行ってきたこの由緒あるプライベート・パンクは、顧客の機密を忠実に守り通すことをモットーとしてきた。
そのため、公の株主総会で、取締役会の不正が暴かれて大きな騒動になることを不快に感じた。
「私は一〇億ドルのポートフォリオを運用していますが、そのうちファニ1・ファンドに投資した金額は一〇〇〇万ドルです。
全体のたったの百分の一です。
そのわずかな投資のために訴訟やスキャンダルに巻き込まれて、うちの銀行の名前が新聞や雑誌に載れば、信用と評判に関わります」と述べ、急進派のやり方に異を唱えた。
実際、多くの機関投資家は彼と同じ意見だった。
別の銀行の運用者も「ファニー・ファンドの価値がゼロになれば、ポートフォリオの損失として今年末に償却します。
これは行内の内部的な手続きです。
他の投資がうまくいっているので、ファニ1・ファンドがつぶれでも大きな損にはなりません。
それよりも、そんなおかしな投資にうちの銀行が関係していたなどとマスコミで書かれて、世間に恥をさらすほうが困るのです」と語った。
アメリカでは自らの正当性を主張し、正義を貫くためには正面切っての争いごとも辞さないが、ヨーロッパの投資ビジネスにとっては体面を重んじることのほうが大事だった。
しかしながら個人投資家の多くは実際に資産価値が目減りしていることを知り、これ以上の損失を食い止めるべく、何らかの形で正義がなされるべきだと強く感じていた。
運用会社は投資家の納得がいく運用をする義務があり、それができない場合には、投資家が望む形で問題を解決する必要がある。
投資家は、どのように解決策を導くかそのやり方に関して、ランドックとフエイパーを中心とした「急進派」とヨーロッパの機関投資家を中心とした「穏健派」とに割れた。
投資家へのリポートスティーブ・ワグナーが事態を見守りようやく正確な現状把握ができたのは、混乱に満ちた株主総会から数カ月たって、二〇〇四年が明けてしばらくたってからだった。
ヘッジファンドの世界では、一九九人年のロシア危機のように、これまで優れた収益を上げてきたファンドが突吠川破綻することもある。
ヘッジファンドを営業するマーケターにとって、こうしたリスクはつねにつきまとう。
スティーブは、投資家にとっての最善策を模索する努力を継続することが、彼のキャリアを救うことと確信していた。
ファンドの運用業績が好調なときも不調なときも、またこのような危機のときも、投資家が納得するサービスに徹することが彼のプロとしての原則だった。
スティーブは投資家への現況報告をまとめ、取締役会と経営批判の表に立つ急進派の声明とヨーロッパ機関投資家の穏健派の考えをそれぞれ丁寧にリポートした。
①全投資家の利益を保護するため、ニ〇〇三年二月一七日に新規申し込み及び解約を一時的に停止した。
②二〇〇三年一月末までに解約を申し込んだ投資家には規定に従って二〇〇二年一二月末現在の価格で解約代金を支払う。
その後現在までの解約申し込みについては、将来行われる次回価格計算に準拠して支払いを行う。
③解約を求める投資家からは早期支払いを望む声が強いが、残存投資家の利益保護に最大の配慮をするため、資産の投げ売りはしない。
④それぞれの資産の取り扱いについては、改定ビジネスプランを参照されたい。
⑤二〇〇二年末からの資産価値(価格)減少は、資産投げ売りのためでも、その前の資産価値計算に水増しがあったためでもなく、アメリカの商業不動産市場の悪化に拠る。
⑥資産価値計算はつねにアメリカの会計法上許された、いわゆるGAAPに基づいて行われており、監査も正式に受けたものである。
⑦取締役会は運用手数料を大幅に減額、実費のみとして、投資家の利益に貢献している。
③解約代金が支払われていないのは、資産売却によって得た代金をその他の資産の運用のために使ぃ、投資家の利益を最大にするためである。
新規に付け加えられたものは、解約代金の支払いが昨年二〇〇二年一月末までの申し込み分についてももっと大幅に遅れ、二〇〇四年末が目標となり、また新規申し込み、解約停止も二〇〇四年いっぱいは続く感触です。
二〇〇三年六月末の財務諸表によると、投資家の資産価値は二〇〇二年末に比べて三01三五%低下した模様です。
運用会社側発表以外で注目に値する動きが出てきていることをご報告いたします。
株主総会が聞かれる直前の二〇〇三年一二月に、ヨーロッパの一部投資家から現経営陣への不信任動議提出の動きがありました。
その動きの急先鋒はアメリカ人ランドック、フエイパー両氏でした。
このグループの主張は以下の通りです。
①現経営陣が過去に一貫して資産を過大評価し、運用手数料を水増しして受け取り、取締役の年俸を高くしてきた疑いがある。
②「家賃保険」案件は不動産関連ではあるが、破綻不動産投資という本来のファンドの目的とは遊離し、しかも取締役多数が株主となっているため利益相反の疑いがある。
③「家賃保険」は非公開株投資に準ずる投資で、運用手数料の対象にするべきではなかった。
④アメリカの商業不動産市場は経営側が主張するような不況下にはない。
不動産市場全体は活況で、半年で三〇%以上の損失が出ていることは説明がつかない。
⑤現監査法人EDO杜も信用できない。
独立した機関による資産評価が必要である。
@このまま現経営陣が温存されればファニー・ファンドは破産の危機に瀕する。
直ちに全役員の退陣を要求する。
要求に従わない場合には告訴に踏み切ることも考慮する。
これに対して会社側はいわれのない中傷だ、と反論しています。
第三の勢力は、ヨーロッパ機関投資家グループで、ランドック、フエイパー両氏の主張に筋を認めながらも、あまりにも急進的な提案には同調することをとどまっている気配がうかがわれます。
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